十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

石屋 11

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「あの男は私のお客で、黒紙を引き当てたんだよ……」
「ほぉ〜黒紙かぁ〜それはそれは欲張り放題な男の子だね〜」
「フッ、だからこそ私の店に来たんだろ?」
「ククク、違いない……」
鏡屋の男は水晶に映る男を改めて眺めニヤリと笑った。
「黒紙を引き当てたのに玉が四つ……早速使ったのかぃ? この坊やは」
「ふ〜、相変わらず目ざといね。だから鏡は嫌いなんだ……」
女は水晶に手をかざしてスイッと左から右へ手を振る。
すると水晶に映りこんでいる映像はブレスレットの部分をズームアップした。
「人と言うのは便利なアイテムを手にすれば一度は試してみたいと思うもの……。それが、欲の固まりで自分が一番だと思っていればいる人ほどその傾向にある……」
「フッ、なるほど。じゃぁ、この坊やも?」
「ウフフ。そう、この子も試して見たくなったのさ。【試験】と言う名を借りた疑いの儀式。これだけあるんだからその一つを試しに、たいした事のない願いを願ってみよう。それが叶えば今までの出来事は本当だ……。そう思いたいのさ」
「へぇ〜頭が悪いんだな」
「あぁ、良くは無いね。だが、自身は凄く頭が良いと勘違いしている。自分で自分の力量が測りきれていない。だから、この方法が一番の、最善の方法だとそう思ってしまって自分に酔いしれていく」
「願いはたった五つしか叶わないと言うのに、五つもある……、そう思っているってことか」
「目の前の事実をどう捉え、どう理解して自分の中に取り込んでいくのか。この子は知らない。ひとつの選択がその後の全てを変えていく事になるかもしれないと言う事を……」
石屋の女はそう言いながら、ニヤニヤと嬉しそうに笑い、そして水晶に映る男にキスを送った。
その石屋の様子を見て、フーと溜息をついた鏡屋の男が言う。
「……まったく、相変わらずと言うか、なんというか……」
「何だい? 歯切れの悪い言い方は嫌いだよ」
「フン、元々嫌いなんだろ? 鏡はさ」
「あぁ、嫌いだね。悪趣味ったらありゃしないよ。覗きの常習犯が……」
「ひでぇ言い様だな。悪趣味はお互い様だろ?」
「聞き捨てなら無いね。私の何処が悪趣味だって言うんだい」
「だってそうだろ? 分っていながら余り説明せずにあの男に石を与えたんだろ。いつものように」
「そう、いつものようにね。それが私の商売のスタイルだ」
「はぁ、だから悪趣味なんだよ。そうしてココでほくそ笑んでるんだから」
「ハッ! お前よりマシだよ」
「ククク、覗かれたくないなら鏡のあるところに行くんじゃねぇよ」
石屋の女がキッと鏡屋を睨み付けると、鏡屋の男は肩をすくめて微笑し、その体をキラキラと光らせ始めた。
「オバサンのヒステリーが起こる前に退散するよ」
鏡が光を反射させるように輝いて、男の姿はその場から消え去った。
男の姿が消えると、女はツカツカと店に一つだけ置いてある小さな置き鏡の前に行き、バタンと鏡を棚に伏せて呟く。
「二度と来るんじゃないよ……。若造が」
チッと舌打ちをし、女はクルリと体を反転させて席に着き、水晶を眺め眉間のシワをゆっくりと解いて口の端に微笑を浮かべた。

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