十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

石屋 12

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朝。
いつもより早く大学へと向かう。
理由は勿論、あの教授の顔を拝む為。
どんな面を提げて俺の前に現れるのか? 俺は楽しくて仕様が無かった。
シャリン。
腕を動かすと涼やかな音色が右手から流れてくる。
そう、まだ一つ目だ。
まだあと四つある。
太陽の光を浴びてキラキラと輝く石と、オーロラの紐。それはまるで俺の成功を祝福してくれているかのように見えた。

大学について、教授の部屋へ行けば、延々とつまらない教授の話を聞かされた。
君は凄い。君は天才だ。
フン、そんな事。
もう分りきっている事じゃないか。
何を今更言う必要がある?
教授の話は俺を退屈にさせ、俺は来たときの爽やかな気持ちを害されて教授の部屋を出た。
ドアを開け、部屋の中に向かって軽く会釈をして振り返ると、体にドスンと何かがぶつかる。
「きゃっ!」
「うわ!」
俺の体にぶつかってきたのは、ゼミの後輩の鈴木京子だった。
小柄でスレンダーな彼女はゼミの中ではマドンナ的な存在になっていた。
「ご、ごめんなさい」
「あぁ、こっちこそ。ゴメン」
俺は密かに彼女に思いを寄せていた。
可愛い外見からは想像もつかないほどに頭も良い。
俺につりあう女は彼女しか居ない。
俺はそう思っていた。
「……あの田所先輩?」
「え? あ、何か用?」
「翔ちゃん……。あ! 違っ、嵐先輩、中に居ますか?」
「……いや、おらんけど」
「あ、そうなんですね。教授の部屋から出てきたからてっきり……」
「教授の部屋から出て来たら何で嵐の事知ってるって思うわけ?」
「だって、田所先輩のレポートを認めたのって嵐先輩で、それを教授が聞いて重要視したんでしょ?」
「はぁ? 何? それ……」
「嵐先輩って凄いですよね〜。あの教授が認めてるのって嵐先輩だけなんだもん」
「……へぇ、そうなんや」
「あ、すみません。他を探します」
彼女は何だ知らないんだと言わんばかりに少し微笑を浮かべ俺の横を通り過ぎて行った。
嵐 翔一(あらし しょういち)
俺の同級生だが、俺より一つ年下だ。
全てを手に入れているヤツが俺は嫌いだった。
俺には劣るが才能もある。容姿端麗。
ヤツの爽やかさは俺をムカつかせる。
彼女は過ちを二つ犯した。
一つ目は嵐の事を翔ちゃんと呼び、ヤツの話を自慢げにしたところ。
俺が気づかないとでも思っているのか?
二つ目は俺に対してのあの態度。
俺を馬鹿にしているのか?
ふざけるな……。
俺をそんな風に見て良いと、俺をそんな風に扱って良いと思っているのか?
静かに俺は一歩を踏み出した。
ゆっくりと足を運び背筋を伸ばして前方を見据えて歩く。
俺の右腕からは、シャリーン、シャリーンと石がねだる様に音を立てていた。
カタン……。
俺は広い講堂の一番後ろの一番右端の席に腰を下ろした。
朝早いため、人は少ない……。
俺は左手で右手首を机の下でそっと握り締める。
冷たい石の温度が手を伝い、自分の体の中を駆け巡っていくようだった。

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