十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

石屋 13

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(……あの女。アイツを俺の物に)
俺がそう願った時、俺の周りの空気が揺らめいて、俺以外の周りの風景が一時停止した。
「……な、これは何や?」
俺は動けるのに周りの皆は陽炎のように揺らめく景色の中でその動きを止めている。
会話も無く、空気の流れる音さえも聞こえない。
周りの変化に驚く俺の右手ではピシピシとひび割れる音が響いた。
パシィ――ン!
再び甲高い澄んだ音があたりの空気に波紋を立てて鳴り、右腕にあった四つの石の内、薄い桜色に輝いていた石が空中へと砕け散って石も周りの風景のように停止する。
そして、砕け散ったカケラは以前と同様にサラサラと砂が風に舞うように空気の中に消え去った。
(これで、アイツは俺の物や……)
この石が確実に俺の願いを聞き届ける事は実験済みだ。
腕を見れば再びなくなった石の部分をオーロラの糸がうめていた。
糸が完全につながるとあたりの風景は元の風景へと戻り、がやがやといつも通り耳障りな馬鹿な連中の馬鹿な話し声が聞こえてくる。
暫くして、カタンと俺の隣に誰かが腰掛けた。
振り向けば、嵐がいた。
(彼女やないんか? 何で嵐が……)
俺は出来る限り動揺を見せないように嵐の横顔を眺めて言う。
「……珍しいな。嵐がこの授業に顔を出すやなんて。どういう風の吹き回しや? お前、この授業はつまらんって言ってたやろ?」
「あぁ、ちょっとな」
嵐はそういって前方を見据えたまま、コチラを見ること無く、フーと溜息を一つついた。
「聞いたで」
「何をや?」
「決まってるやろ。京子と付き合ってるんやってな」
「……(付き合ってると言う事になって居るのか? 石のせいで)」
「まぁ、恋愛は自由やし、俺も京子の事を放っておいた責任があるけど、まさか田所と二股かけられてるとは思わんかったからさ、驚いてな……」
「俺に文句言いに来たんか?」
「……だったらいくらか気持ちが楽になるんやけど。俺は田所が凄いの知ってるし大事な友達やし、京子が田所を選ぶんだったら俺に何も言う事は出来んからな。そうやなくって、確かに俺は京子を大切にしてなかったかもしれん。だから、京子を大事にしてやってくれって言いたくってな」
「……そうか」
ニッコリと寂しそうに笑う嵐の笑顔に俺は何故かムカムカと怒りが湧き出てくるのをおぼえていた。
(しまった……、一つ願いを無駄にしたか)
俺は先ほど願った願いに少々後悔していた。
そう、別に女等どうでも良かったんだ。
俺は今、この俺の隣で微笑を浮かべているコイツが居なくなればいいと願えばよかったんだ。
願いはあと三つ……、取り戻す事はできない。
俺としたことがしくじってしまった。
(大事にしてやってくれ? イライラする。女を取られてその相手に笑顔で女を頼むなんてこいつはアホなんか?)
嵐は話を終えた後、俺のレポートについて色々と話をしてきた。
褒めるのは良い。
俺のレポートが優れて居るのは当たり前の事だ。
だが、それをコイツが語るのが許せない。
何故コイツは人の感情をここまで乱せる?
(……褒めるだけならまだしも、アドバイスとはな。お前にアドバイスを受ける必要性がわからんし、俺にアドバイスを出来る立場でもないだろう)
顔全体で雰囲気で優しさをあらわす嵐は俺を更に苛つかせた。

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