十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

石屋 15

イメージ



飛び散った破片が空気に溶け込んだ時、歪んだ景色は元へと戻る。
(……時間が、動き出す)
居なくなればいい、そう願った俺の願いは聞き届けられ、空間が元に戻れば横に居た嵐は居なくなっているかもしれない。
先ほどまで横に居た嵐が急に居なくなったら……皆は、そこに嵐が居たと知っていた人達はどう思うんだろう?
俺のせいだと思うだろうか?
いや、人1人を消すなんてそう容易なことじゃないことぐらいスグ分る……嵐が帰ったと思うほうが普通か?
そんな事を考え、俺は目の前の机に肘をつき、握り締めた両手を額に置いて、瞳をギュッと閉じた。
怖かった……
自分の隣を見るのが怖かったから。
ザワザワといつも通りの雑音が耳に入ってきた。
そう、いつも通りの雑音だった。
(……どうなったんや?)
俺がその雑音に首をかしげかけたその時。
ポンと肩に手が置かれ、聞き覚えのある声が耳に入ってくる。
「おい、田所?どうしたんや?具合悪いんか?」
「え?!」
声にビックリして肩に置かれた手の先にある顔を見た。
そこにはいつも通りの笑顔を浮かべながらも心配そうに俺の顔を覗き込む嵐がいる。
「あ、嵐……なんでココにおるんや?」
「おいおい、大丈夫か?ずっと居って話しとったやろ?」
「あぁ、そ、そうやな……うん、そうや」
「?。なんやねん。変なヤツやな〜。ホンマに大丈夫か?今日は休んで家に帰ったほうがエエんちゃうか?」
「……いや、大丈夫や」
「そうか?ならエエけど……」
嵐がそういったとき、ベルが鳴り響き、講義が始まった。
部屋は薄暗くなり、大きなプロジェクターで映し出された図形に教授が赤い光を飛ばして詰まらない事をダラダラと話し始める。
教授の話はマイクを通して部屋全体に響き渡っていたが俺の耳には届いていなかった。
たいした話じゃないことは確か。だが、それが原因ではない。
俺は全く違う所で全く違うことを思考していた。
石は確かに砕けた。
2回石が砕けて、2回願いが叶った。
石が砕けるたび、俺の願いは叶ってきた。
なのに、今回はどうしたんだ?嵐が隣に居る。笑っている喋っている動いている……
石は砕けたのに……
俺がそんな事をずっと思考していると90分などあっという間に過ぎていった。
頬杖をついて机を眺める俺に、隣の嵐が声をかけてきた。
「田所。ホンマに大丈夫か?この後、休んだらどうや?」
「……あぁ、いや、大丈夫や。必須科目は出とかんと」
「そうか?ま、どうせ俺も同じやし、一緒に行ったるわ」
「(……行ったる?偉そうに)ん、すまんな……」
俺は少しむっとしたまま立ち上がり、次の英語の授業がある教室へと歩き出し、嵐もその横をついてくる。
何故、石が砕けたのに嵐がココに居るのか?
やはり願いと思いは違うのだろうか?
そんな事を他愛の無い話をして笑っている嵐に相槌を打ちながら考えていたが答えが出るものでもなく、広い校内を歩いていく。
山の手に作られた大学は広く、授業の為、離れた別の教室へ行くのにも時間がかかる。
校内の真ん中には大きな道が1つあり、車通学の者はそこを通って大学の裏手にある広い駐車場へ行くのだが、俺と嵐は教室へ行く途中、その道路を横切る為に道路の脇に立っていた。
「……中々車が途切れへんな」
「あぁ、授業と授業の合間やからやろ?次の授業に出るヤツがこの時間帯に通学して来るんや」
「朝から授業を入れてないヤツラの事なんて知るか……」
「ふぅ〜。田所ってそう言う所、堅物やな〜自由選択やねんからエエやん」
呆れたような顔をして溜息をつく嵐。
どうしてヤツはこうも俺をイラつかせるんだろうか。
先ほどまで願いが聞き届けられてしまったのだろうかと不安な気持ちに包まれていた俺の心の中は、聞き届けられていないと言う事が分ったせいか、すでに不安な気持ちは全くなく、ムカムカとした苛立ちが支配してきていた。
(ホンマに……コイツは嫌いや!)
俺がそう思ってキッと嵐をにらみつけたとき、俺の目の前から嵐が消えた。

イメージ上へ
イメージ イメージ イメージ

web拍手 "

応援ヨロシクです♪
inserted by FC2 system