十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

石屋 16

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キキィィーーー!!!
凄まじい車のブレーキ音が聞こえてきた。
きゃぁぁぁ!!
甲高い叫び声が俺の耳に入ってくる。
あたりは騒然とした。
俺はゆっくりと睨みつけていた視線を鈍い音のしたほうへと走らせる。
トラックの運転席のその向こうにチラリと覗く足。
見覚えのあるジーンズに、見覚えのあるスニーカー。
そして……
見覚えの無い赤い水溜り……
徐々に広がるその液体の中、嵐は体を横たえていた。
病院の待合室。
俺は別に付き添うつもりも無かった。なのに、近くにいた為に救急車に乗せられ連れてこられた。
ざわつく待合室の向こうでは手術中のランプが赤く点灯している。
(……俺のせいやない)
待合室の長椅子に腰を下ろし、目を閉じ、下を向いて頭を抱え体を小さくしながら俺が思うことはただ1つだった。
「……そうかしら?」
不意に俺の耳に女の声が飛び込み、驚いて頭を上げると、俺はあの石屋の椅子に腰掛けていた。
「な、何で?病院に居ったはずやのに……」
驚いて見回している俺の目の前でクスクスと笑い声を立てて座っている店主が俺に言う。
「言ったでしょ?来たいと思えばこの店には来れるって……」
「お、俺は来たいやなんて」
「思ったでしょ?石のせいだって……」
「そ、それは……」
「石を否定した……つまり、この店に苦情があると言う事。つまり、貴方はこの店に来たいって思ったのよ」
女店主の言葉は高圧的で、俺はそうじゃないと思っていたのにもかかわらず、女店主のその言葉にただ頷いていた。まるで主人の言いつけを守る犬のように。
俺が頷くと女店主はニッコリと微笑を浮かべて席を立ち、俺の後ろへ回り込む。
そして、そっと低くハスキーな声で俺の耳元で囁いた。
「……コイツさえこの世から居なくなってくれれば」
「っ!!」
ビックリして振り向こうとする俺の肩を、何処からそんな力が出てくるのだろうというくらいに強く、椅子に俺の体を押し付けるように押さえ込み、更に耳に言葉を投げかける……
「そう、強く願ったでしょ?」
「ち、違っ……アレは願いじゃ……」
「願いじゃないって言いたいの?ダメよ。その言い訳は通らないわ」
「言い訳……」
「石はね、貴方自身の心のかけら。願望が1つ1つの石となって現れたもの……だから貴方の気持ちに忠実で、絶対に嘘はつかない」
俺は耳元で言葉を投げかけられれば投げかけられる程に頭の中がめまいを起こしたようにクラクラとして行く感覚におちいく。
「貴方が望んだ貴方の願い……石は必ず叶える。彼が居なくなった世界であなたは何を願い何を望むのかしら?」
「……あ、嵐が居なくなった…世界……」
「だって、貴方がそう願ったのでしょう?居なくなればいい……そう、願ったのでしょう?」
女主人の声は徐々に遠のくように聞こえたが、その内容は鮮明に俺の耳に響き渡り、俺は目を閉じ、拳を作った手で自分の額を叩き、歯を食いしばった。
「違う!!俺は……俺は!!」
押さえつけるように置かれた手を押しのけるように立ち上がり俺は叫んだ。
「俺は願ってへん!!」
クスクスと楽しそうに笑う女の声が小さく遠ざかっていった。

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