十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

石屋 17

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ざわっ!
叫んだ俺の声に雑音が答え、立ち上がった俺は服の裾をグイッと引っ張られ、再び椅子に腰を下ろした。
隣を見ると、不思議そうに首をかしげ、そして眉間にシワをよせて京子が俺を見て、小さな内緒話をするような声で言う。
「……何してんの?ココ、病院よ?」
「あ、あぁ……」
「急に立ち上がって変なこと叫んで……大丈夫なん?」
「……あぁ……」
大丈夫かと聞かれて大丈夫と言い切れるほど俺は自分に自信が無かった。
京子が横にいつの間にいたのか、それすら気づかないほどに動揺していると言う事は自身が一番良く分っていたからだ。
シャリーン、シャリーン……
右手首で鳴り響く石の音が、女店主の笑い声に思えて俺は思わず耳を塞ぐ……
そんな俺の肩にそっと腕を回して京子は背中を撫でて優しく言葉をかけた。
「大丈夫……きっと助かるって」
(助かるわけが無い……)
「貴方のせいやないわ……」
(……そうなのか?俺のせいやないのか?いや……俺のせいや)
「皆がどう思ったって、私はそう信じてる」
(っ!!)
京子の言葉に俺は思わず大きく目を見開いて京子を見つめ、震える声で京子に尋ねる。
「……皆がどう思ったって?どう思ってる言うんや?」
「あ……そ、それは」
「言うてくれ……皆はどう思ってるって言うんや」
京子の方を両手で掴み、自分の方をへ向けて詰問した。
食い込む俺の指の力の痛さに京子は顔をゆがめながらもスッと視線を地面へと落とし呟く。
「……皆は……先輩がやったって……」
「な、何やて?!」
「……あの時、翔ちゃんの近くにいたのは先輩で、先輩はずっと翔ちゃんが嫌いやったから、それで……」
「お、俺が……俺が嵐を突き飛ばしたとでも?」
「……わ、私は、私は信じてないで。でも、先輩が足をかけて翔ちゃんを倒したのを見たとか言う人もいたり、学校の中は警察がウロウロしてるし……それで、皆面白がって」
「俺は……俺は何もしてへん……」
頭が真っ白になっていくのが分った。
「私は信じていない」そんな事を言っている京子の瞳の奥にも疑いの色が見え隠れする。
フラッと立ち上がった俺の手を京子が掴んだが、振り払うように離し、俯き京子に背中を向けた。
「……トイレに行って来る」
「先輩……」
「逃げたりせぇへん……トイレに行くだけや」
「逃げるやなんて、そんなこと」
「フッ、思ってないって言えるんか?監視してるんちゃうんか?」
「……酷い」
ゆっくりと歩いていく背中で京子のすすり泣くような声が聞こえたが、俺の耳にはそれよりも騒がしい病院の騒音の中、廊下を歩く自分の靴音だけが鮮明に響いてきていた。
カツン……カツン……
妙に響き渡る自分の靴音に追いかけられているような、そんな錯覚を覚えながらトイレに入る。
さすが病院のトイレだ。
真っ白でゴミ1つ無く、キラキラと光って見えた。
別に用を足したいわけではなかった。
洗面台の方へ脚をむけ、水道の蛇口を捻り、流れ出る水を両手に溜めて、ザバッと顔を洗う。
生ぬるい水は数度顔を洗うと冷たくなった。

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