十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

石屋 18

イメージ



水に濡れた顔を上げれば鏡には一体それが誰なのかと思うほどに沈みこんで影のできた自分の顔が映りこんでいた。
(……俺は……俺はどうすればええんや)
鏡に映った自分に問いかけるが、もちろん返事など無い。
(俺のせい……例えそうだとしても、誰に分るわけやない)
シャリーン……
俺の考えにまるで頷くように右手首の石が鳴る。
(そうや……分かるわけ無いんや。石が勝手に俺の思いをかなえたんやから)
シャーーン……
その音は肯定する音には聞こえず、俺の心を乱した。
まるで、自分には関係が無いと言っているようで、お前のせいだと責められている様で。
(確かに強く思ったかもしれない!だが、それを勝手に願いと捉え、叶えたのはお前じゃないか!!)
シャーーン……
石の音色はまたしても俺の考えを否定するように、俺を非難するように鳴り響いた。
その音色にカッとなった俺は、腕から石を引き剥がそうと、オーロラ色の糸に手をかけ、力いっぱい引っ張ってみたがオーロラの糸はビクともせず、俺の腕に巻きついて、糸を引っ張った俺の手からは血が滴り落ち、落ちたその血は2つあるうちの1つ、真っ白な石を赤く染め上げる。
シャーン、シャーン……
少し鈍く聞こえ始めたその石の囁きに俺は頭がおかしくなりそうで、左手で額を押さえ込み、そのまま前髪をグッと握り締めた。
(俺やない……俺のせいやない!)
フラフラと2,3歩後ずさると、背中にドンと壁が当たり、その壁に背中をつけたまま俺はズルズルと床に座り込んだ。
目を閉じれば、赤い血溜の中、体を横たえるあの嵐の姿が消えては現れ、俺が犯人だと面白半分に噂する学校の連中の顔がニヤニヤと見えてくる。
ハァハァと呼吸が苦しくなり、額からは大量の汗がにじみ出てきた。
(……煩い……煩いぞお前ら……)
頭の中でざわつき、ニヤつく連中が無性に腹立たしく、イライラとした気分の中、煩く音色を立てる石に向かって俺は叫んだ。
「煩い!何もかも!!静かにしろ!!!」
パァーーン!!!
俺の叫びが終わると同時に石が砕け散る音が鳴り響いた。
一気に当たりは静けさを取り戻し、俺は何も聞こえなくなってゆっくりと瞳をあける。
目に入ってきたのは何も無い世界……
「なっ!……お、俺は確かトイレに」
上も下も、右も左も何もかもが分らない世界。
真っ暗闇で、自分が目を開けて居るのかすら分らなくなる世界。
(石の……せいか?)
何も見えない中、俺は自分の左手で右手首を探った。
右手首にある石はたった1つになってしまっている。
(例の石が願いをかなえてる瞬間……その光景か?)
俺の頭の中に一瞬そんな考えが浮かんだが、頭の中のもうひとりの俺がその考えをかき消す。
「そうやな……そんなわけは無い」
俺の声はまるで吐き出した口のすぐ傍で消滅し、闇に溶けていくように響く事は無い。
既に方向感覚など無ければ、自分の体が立って居るのかねているのかすら分らない状況で、俺はそっと顔の目の前に自分の手を持ってきた。

イメージ上へ
イメージ イメージ イメージ

web拍手 "

応援ヨロシクです♪
inserted by FC2 system