十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

石屋 19

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「……見えるわけ無いか……フフフ、怖いな……あぁ、怖いな」
暗闇で自分の瞳が開いているのかすらわからないのに見えるわけもなく、自分の体が見えないことが、自分の存在を自分で確認できない事がこんなに恐ろしいとは思っても見なかった。
自分自身の存在が無い。
(なんでや……なんでこんなことに?)
その答えは簡単で、すぐに答えがあった。
(どうすれば俺はココに居ないで済む様になる?)
幾ら考えても俺に答えは出ない。
何も聞こえない、何の存在も感じないこの空間で恐らく俺は立ち尽くしている。
そう、恐らく。
自分で自分の行動が把握できない。他人が俺を把握しない……存在が確立しない。
俺はそっと左手で石の存在を確認したまま、指で石をはじき考える。
ココには誰も居ない……湧き上がってくる不安と恐怖。
頭もおかしくなりそうだ……俺の存在を確認するものが居ないのだから……でも。
心のどこかで安堵している俺が居るのも確かな事。
嵐のことで誰に何を言われる事も無い。疑われる事の恐怖は無くなった。
今ここでもとの世界に戻してくれと願えば、石は確実にその言葉の意味通りに俺をあの病院へと戻すだろう。
それは嫌だ。
この石に願う事……
もう、たった一つになってしまった石に願う事……
俺は考えなければならない。
この世界から抜け出し、そして嵐が居て、俺の存在が<疑い>で確認されない世界に戻る方法。
フゥー…
俺は深呼吸をする。
そして残りの1つの石を握り締め、そっと願った。
「嵐が生きている世界へ俺を戻してくれ」
俺の言葉が暗闇にとけこんで、暫くしたとき、左手で触っていた石はその場ではじけ、俺の右手から無くなった。
「……コレがベストの願いのはずや……」
俺は自分自身で出した素晴らしい願いに笑いが込み上げてきた。
こんな場所に何時までも居る気は無いし、かといってそのままの現実へ引き戻されるのは勘弁だ。
現実世界の問題点は1つ。嵐の問題だけ。
嵐さえ生きていれば後の事は問題ない。
「ククク…やっぱり俺は頭がエエな……あ、あれ?」
込み上げてくる笑いを堪えてそう呟いた時、俺は急に頭がクラクラと回り始める感覚に瞼を閉じた。
真っ暗闇で瞼を閉じてるのかすら分らない状況だが、自分のしている事位は把握できる。
「こ、これは……何や。元の世界戻る前兆?」
めまいが酷くなり、吐き気すら覚えるその感覚に俺は膝をついた。
「気持ち悪い……」
そしてそのまま俺は気を失った。

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