十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

石屋 20

イメージ



閉じられた瞼の向こう側から差し込んでくる光を感じ俺は気がついた。
(……あ、明るい)
バタバタと騒がしく俺の周りを誰かが何かを叫んで走り回っている音がする。
(ん……なんだ?騒がしいな……)
徐々に浮き上がってくる意識の中その騒がしさを確認するとともに、俺は自分の体の節々の傷みに顔をゆがめた。
(痛い……どうしてこんなに体が……)
「……っ!輸血を急いで!」
(輸血?……輸血って何の事だ……)
そっと俺は瞼を開けようとしたが、傷みのせいか少ししか開かず、薄めで周りを眺める。
白い壁に明るい照明……
そして、俺の横を通り過ぎていく白い服装の医者と看護婦。
「うっ……く、何で……」
「あっ!先生、意識が!」
「何?!君、分るか?コレが見えるか?!」
「指……3本……」
「良かった!気をしっかり持つんだぞ!すぐに手術に入るからな!!」
目の前に掲げられた指を数えた時、先生と呼ばれた男がそういった。
「手術……な、何……?」
何とか声を出して俺が聞くと俺の耳元に看護婦が状況を囁く。
「事故にあったんですよ。車の前に貴方が飛び出して……」
「事故……」
「大丈夫ですよ。必ず、先生が助けてくれますからね。お友達も心配して待ってるんですから頑張らないとね」
俺は再び深く沈んでいこうとする意識の中で、状況がわかった様な気がしていた。
そう、俺は今、事故に遭遇して病院に運び込まれ手術を受けようとしている。
恐らく、あのドアの向こうに嵐と京子が居るのだろう……。
俺はあの暗闇から抜け出した。
確かに嵐は生きている。
石は……
俺と嵐の状況をすり替えた。
そして、俺の願いをかなえたんだ。
沈んだ意識の中、俺は薄ぼんやりとした空間で立っていたが、今の状況を頭に浮かべてその場にガクリと膝をついて俯き、つい呟いてしまう。
「何が願いをかなえる石や……最低や無いか」
灰色の世界で俺の呟きは木霊のように反響し、そしてその呟きに同じく木霊のように答えが返ってきた。
「あら、失礼ね。叶えたでしょう?言葉の通りに、貴方の願いを……」
頭を抱え俯いていた目の前がフッと暗くなり、細くて色白の長い脚が眼に入ってきた。
「俺は……、俺が望んでいたのはこんな事やない」
「こんな事?いいえ、貴方の望みは叶えられている。その言葉の通りに石が叶えたわ」
「は!確かに俺は嵐の生きている所に戻せと願った。でも、俺を事故にあわせろ何て願ってへんわ!」
「あら、頭が良いんじゃなかったかしら?意外にお馬鹿さんなのね」
「な!何やて?!」
「フフフ、言ったでしょ?言葉の通りにって。貴方は嵐が生きていて自分も事故にあっていない世界とは言わなかった。まして、時間をも指定しなかった。だから石は少し前の時間へ貴方を帰したのよ……」
「そうだとしても、何で俺が!」
「事故は確かにあったのよ。その時間の流れの中では……だから、誰かが事故にあう必要性があった。石は最も時間の流れの中で自然でそして、貴方の願いも叶えられる方法をとったのよ……」
「そ、そんな……」
「伝えたい事をぼかすからこうなるのよ……言葉とはそういうもの。人間は頭が良いからチョットした言葉でもその人の雰囲気などで読み取ってしまうし、読み取ろうとする。でも、石は違うわ。言葉の通りに願いを叶える……貴方の思いを受け取って」
女は俺の額に右手の人差し指を押し付けるようにして更に続けた。
「私の店での契約、それは貴方の願いを叶える石を渡す事……でもね、何の見返りもなくそんな事をしてくれる良い人なんてあの十字街には居ないわ」
「み、見返り……」
「そう、私の見返りは石となった貴方の一部を頂く事……」
額を押され、顔を無理やり上げさせられた俺の目の前に、女は左手を開いてキラキラと輝く石を見せつける。
それは、俺の願いを叶える時に砕け散ったその石達だった。

イメージ上へ
イメージ イメージ イメージ

web拍手 "

応援ヨロシクです♪
inserted by FC2 system