十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

石屋 21

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「それは……」
「そう、コレは貴方が自身の心から私との契約で出した石。そして、貴方の願いを叶えて飛び散った石」
「心から出した?」
「あら、気づかなかった?そう……そうね。気付かない人だから私の店に来れたんだもの。気づくわけが無いわね」
女は口の端をクイッと上げて微笑み、俺の睨みつける視線から伏せ目がちにスイッと目を流す。
低く、唸るような声で俺は女に言った。
「何一つ説明しないで何が『気づかなかった?』や……それでも商売やっとる主人か?」
「クスクスクス……商売じゃ無いわ。ただの店よ。だって貴方からお金は貰ってないでしょう?第一、説明しなきゃいけないようなものではないんですもの。普通は途中で気づくものよ……貴方は5つもあったんだから」
女の笑い声が妙に俺の感情を逆なで、俺をいらつかせ、女を睨む目にも力が入ってくると女がふと囁く。
「睨みつけられるのも嫌いじゃないけど、貴方の今の睨みは嫌いだわ……いいわ、特別サービスで教えてあげる」
女の顔は微笑みをたたえたままだったがその視線は鋭く、俺を突き刺し、俺はその視線にビクリと体を揺らした。
「貴方が私の店で選んだあの紙は色によって欲望の強さを現す」
語りだした女の言葉に俺が反論しようと口を開くと女は俺の唇を人差し指で塞いでニッコリ微笑む。
「選んでないって言いたいんでしょ?ダメよ。言わせない。頭で出した答えなんて聞きたく無いわ」
「頭でって……」
「あれは貴方の心が選んだんだもの……」
「お、俺の心?」
「そうよ。貴方の心が選んだの。その証拠に私は紙に指一本だって触れていなかったでしょう?」
確かに、女の言う通り女は紙を並べて出しただけ。
俺に対して黒い紙を選んだ事も無く、それを差出しもしていない。
「貴方は一番欲望の強い色、黒を選んだ。貴方の心の中は最大限の欲望と、そして、ひねくれて、歪んだ思いが渦巻いていたのよ」
女の言葉に俺はムッとした。
どうしてココまで言われなければならないのか……俺は不満を口にする。
「アンタに、そんな事を言われる義理は無い。第一、欲望とひねくれって……」
「あら?違うって言うの。欲深く、手に入れた5つの石を全て使っておきながら」
「あ、あれは!」
女に「あれは俺の意思じゃない」そう言おうと女をにらみつけたとき、女はスッと手の平を俺の目の前に出してきて、そっとその手を開いた。
そこには、紫色にキラキラ輝く石がフワリと手の平の上で宙に浮いている。
「それは……」
「そう、コレは貴方が一番最初に砕いた石。自分の力を認めさせてやると願って砕いたその石よ」
俺が石を手に入れて最初に願いが本当に叶うかどうか試した石だった。しかし、その様子は俺の手元にあったときとは違い、綺麗な輝きを放っている。
「貴方はこの石に己の才能と能力を他人に認めさせてやると願った」
「……それが、何やねん」
「石は自らの体を砕くことで願いを叶えた。でも、石が砕けたとき、貴方の本来持っている才能や能力も砕け散ったのよ……」
「どう言う事や?俺の才能が、砕けた??」
「だって、貴方はこの石に才能をと願ったでしょう?己自身でそれを見つけるのではなく、石に……他の物にその思いを成就させようとした……つまり、貴方は捨てたのよ。自分自身で自分の力をね。石は貴方の心だといったじゃない。つまり、そう言う事よ。本来あなたがもっているものを貴方が捨てる事によって石は願いを叶えるの……」
フフッと微笑んだ女に俺は言葉を失い目を見開いて固まった。
そして、女のクスクス笑う声が聞こえるほどに俺の心臓の鼓動は早くなっていく。
石が願いを叶える……それはつまり、俺自身の何かを捨てる事になる。女は今、そういった。
俺の手元には5つの石があった。
そして、その全ては砕け散っている……俺は一体何をなくしたんだ?俺の中の何がなくなったって言うんだ?!
頭を抱え込み小さくうずくまる俺に女は憂いを帯びた声で言った。

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