石屋 24
(……女の言うてた事が分ったわ)
ボンヤリトした意識の中、俺は女の特別サービスの意味が分った様な気がした。
恐らく、俺の願い通り嵐は死ぬ予定だったのだろう。
しかし、俺が最後の石に願った事により、嵐の立場は俺に降りかかってきた。
そして、俺はそのまま死ぬ予定だった。
特別サービスとは「命を救ってやる事」
その見返りとは「俺の声」
女は俺の心を5つも取り上げた上に、声まで、俺の言葉まで持って行ってしまったのだ。
他の何を取っても良かったはずだ。
なのに、女は俺の言葉を持って行った。
(……嫌味な女や、わざわざ言葉を持っていくなんて)
「……田所?何で笑ってんねん」
俺の顔には自然と笑みがこぼれていた。
別に生きていた事が嬉しいからじゃない、こんな状況になるなら死んだほうがマシだと思っている。
微笑みは女の手の平で良いように転がされた俺自身への嘲笑。
恐らく女はワザと俺を生かし、俺の言葉を取った。
女からの挑戦状。
俺にはそう思えて仕様がなかった。
「俺……ずっと、お前の傍でお前に償っていく……すまん、田所」
嵐が情けない顔を向けて俺に言う。
『必要ない』
その一言すら伝える事もできず、俺はうめき声を上げるだけ。
そして、そのうめき声を聞けば聞くほど嵐の顔は情けなく歪んでいく。
『責めている訳じゃない、お前の助けなど受ける資格は俺には無い』
それを伝えたい為に俺は言葉を発しようと努力をするのに帰ってそのうめき声は嵐を苦しめるようだ。
「すまん」「ごめん」「許してくれ」
謝罪の言葉は逆に俺を苦しめる。
そう俺はこうなった今、やっと自分の愚かさを思い知って居るのだから。
(今の俺は一体何を失った?)
胸を揺らす嵐に何も思うことは無く、俺は少し固いベッドに横になる背中をつけたまま、ジンジンと麻酔が切れて痛み出す体を感じながら、白い、汚れも影も無い真っ白な天井を見つめた。
まるでその白さは俺を脅迫するようで……あの女の白い肌を思い出させるようで……
俺はただ、その天井を睨みつけていた。
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