十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

鏡屋 5

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「な、なにを……」
多少裏返った声で私は顔を熱くし、そして少し震えてそういった。
ふんわりと包まれるように抱かれていた私の体を彼はギュッと強く抱きしめ私の耳元でそっと囁いた。
「何してるか分らないの?」
「ち、違っ……そうじゃなくって……」
「クス…、なぁに?」
「……あ、えっと(からかわれている……そう、からかってるんだわ)」
しどろもどろになる私をまるで彼は楽しんでるようだった。
趣味が悪い。
人がアタフタする姿をそんな風に楽しむなんて。
ムッとして気分を害してはいたが、私には彼を突き放す事ができなかった……
だって、彼は私をこんなに力強く抱きしめているから。
彼の胸の中で埋もれる私の顔はきっととても真っ赤でそしてブサイク。
どうして良いか分からず、ブサイクな顔をよりブスにしてうろたえているんだわ。
入社した時に部長が言った。
「ただでさえブサイクなんだからオロオロするな!可愛くなど無いぞ!コッチの気分まで悪くなる。お前は自分の顔をちゃんと鏡で見たことがあるのか?!」
どの女の子もはじめての事でうろたえていた。
なのに、部長は眉間に皺をよせ、汚物を見るような視線で私をみてそう言ったのだ。
その瞬間、その場に笑いが起こった。
集団で私を馬鹿にする笑い。
私がスケープゴートになった瞬間。
「この顔で生まれてきたんだもん……仕方ないじゃない……」
ポツリと呟いた私の言葉に耳元でフフッと笑う声がした。
嘲笑う私をスケープゴートにした連中の顔が浮かんでくると、私の頭はスゥと冷めていく。
そんな中での彼の笑い声は私の心に【不快】と言う気持ちを生むには十分だった。
「……貴方も笑うのね」
「はぃ?」
「貴方も私を笑うんだわ……そうよ、どうせ私はブサイクだもの」
今にも消えそうな声で私がそう言うと、彼はフゥと呆れたような溜息に似た息を吐き、私を更に引き寄せるようにして囁く。
「【どうせ】とはどういう意味ですか?」
「え?」
「【運命】だと諦めるのですか?自分はこうなる定めだったと。初めからそう決められていたのだと?」
「だ、だって!子供は親を選べないもの!」
「貴方は自分を卑下しすぎる……」
そう言って、彼は私の肩を掴まえ、ゆっくりと私の体を自分から引き離すと右手を私の顎にあてがった。
「貴方は1日に何度鏡を見ますか?」
「え?!……えっと、朝に一度だけ」
唐突な質問にうろたえながらも、私は答え、彼の瞳から視線をそらす。
だが、彼は私の頭を動かして私の視線の先に自分の顔が来るようにしてニッコリ微笑んで言った。
「どうして一度しか見ないのですか?」
「そりゃ……だって、自分の顔の事は自分が良く知ってるもの、化粧もしてないからそう何度も見る必要は無いわ……」
「そうですか。では……」
彼はそう言うと私の顎から手を離し、ニッコリ微笑む。
(……何を?)
ゆっくりと彼の顔の横に移動した手がパチンと指を弾いて、辺りにはその指からならされた音が響いた。

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