十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

鏡屋 7

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鏡に手をつけば鏡の中の私もこちらに向かって手をついて、まるで、双子の私が手を取り合っているように見える。
でも、私はその顔を見るのがとても嫌だと思う事に変わりは無かった。
「……やっぱり嫌だわ」
「……そうね、私も嫌だわ」
「え?!」
何処からとも無く聞こえた声は明らかに私の声。
ビックリし引っ込めようとした私の手はぎゅっと掴まれる。
「!!。な、何?!何なの!!」
「クス、そうね、それはビックリするわよね……」
クスクス笑って私の手を掴むのは鏡の中の私。
ゆらりと揺れ動く平面な鏡からは確かに立体的な手が出てきて私を掴んでいたが、鏡が割れて砕けた気配は全く無かった。
「どういうこと?!どうして鏡の中から……」
「クス、不思議……でしょ?」
「あ、当たり前でしょ!何なのよ……」
「頭で理解しようと思っても無駄よ。この空間は今までの理念や概念は全く関係の無い世界だから」
「そんな事言われても……」
「ウフフ、だったら、貴女もこっちへいらっしゃいよ」
そういって、私を掴んだその腕は力強くグイッと引っ張る。
「い、嫌っ!」
水面に手を入れるような感覚で冷たくピチャンと引っ張られる手の甲が触れ、私はとてつもない恐怖に襲われた。
(怖い!)
その感情だけが私の中にあり、私は必死で引きこまれることを拒んだけれど、同じ私であるはずのその腕の力はとても強く、ジリジリと私は引きこまれていく。
水の中に手を入れる感覚ではあるけれど、濡れているという感じは無い。
薄い水の膜を通り過ぎるような感覚。
「……安心して、別に怖い事でも悪い事でもない……だって、ココにいる私は貴女なのよ……」
「貴女が……私……」
「そう、貴女があるべきだった時間の貴女であり、貴女が通っていたかもしれない道程の途中に居た私」
「私があるべきだった……」
「……こちらに来れば全ての疑問は解けるわ」
彼女の声は何故か優しく私に響き、私の固くなった心を柔らかくしたような気がした。
引きこまれていくほどに体の中にあったはずの怖いという感情が少し薄らいで、どちらかといえばなんだかその世界が懐かしい……そんな感じがジンワリと湧き出てくる。
冷たい感触が顔にかかり私は思わず瞳を閉じて息を止めた。
ポチャン……
そんな音が背後でして耳元で優しい声がする。
「……もう目を開けて良いわよ……それに、息もして大丈夫よ。水の中って言うわけじゃないから」
その声にしたがって私はゆっくり瞼を開いた。
キラキラと光り輝く世界には、無数の机と椅子が要所要所に存在していたが、世界そのものは真っ白だった。
「ようこそ、貴女だけの世界へ……」
そう言われ、周りを見渡せば、先ほどまで誰も居なかったはずの椅子に色々な私が腰掛け、手を振っていた。


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