十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

鏡屋 9

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微笑み立つ目の前の【私】はとても自信に溢れていて、そして美しい。
私に向かって放たれる、その笑顔に耐えられなくなって、私は思わず顔をそむけた。
「……何をさせるつもり?」
呟いた私に彼は再びパチンと指を鳴らす。
その瞬間、その場にいたはずの私、全てが消え去ってしまった。
「……き、消えた?」
驚いて回りをキョロキョロと眺める私に彼は唐突な質問を投げかける。
「貴女は今の自分をどう思いますか?」
「い、今の自分?」
「そう、今ココにある貴女自身を……ご自身でどう思いますか?」
「……馬鹿でドジで、可愛くも無くって……そうね、最悪だと思うわ……嫌いだわ」
「嫌い……ですか」
私の言葉に彼はクスリと笑う。
その小さな笑いは私を不機嫌にさせるには十分すぎる笑いだった。
「自分が嫌いなのが悪い?」
「……いえ、悪く無いですよ……全然ね」
「その割には馬鹿にしたように笑ったと思うけど?」
「コレは失礼。そういうつもりではなかったのですが……そう受け取られたのならそうなのかもしれないですね」
彼はとても回りくどい言い方をする。
その言葉全てが私を批判しているようで私の居心地は最悪で、私は彼を睨みつけるように見た。
そんな私の視線に彼はとても嬉しそうにニヤニヤと笑っている。
(……何がそんなに楽しいって言うの?!)
彼の笑いに私がイライラをつのらせていると、彼は私に微笑んで言った。
「では、そんな嫌いなご自分をココに置き去りにして……希望の自分と交換したいと思いませんか?」
「え?」
彼の提案は居心地が悪いと機嫌を損ねていた私を呆けさせた。
「な……、何を言ってるの?」
「……貴女が望む貴女とはどんな貴女でしょう?」
「わ、私が望む私?」
「そうです。どんな貴女になりたいですか?」
彼に聞かれて、私はすぐに応えられなかった。
私のなりたい私。
そんな事、今まで考えたこともない。
私はただ、今の自分が嫌だとそう思っていただけだったから、どうなりたいとか、こうありたいとか、そんな事考えた事も無ければ、望んだこともなかった。
だって、望んだ所でそれが叶うわけも無い事は自分が良く知っていたから。
「思い……つかないわ」
「では、貴女はどんな自分を捨ててしまいたいと……どんな自分が嫌いだと思っていますか?」
「嫌いな自分……」
嫌いな自分と問われて私の頭の中には一気にその質問の答えが沢山浮かんで、私は自分自身に苦笑いをした。
どうなりたいと聞かれて何も思い浮かばなかった、この頭はそこが嫌かときかれて沢山の答えを用意したのだ。
「……ありすぎて、言い切れないわ」
「しいて言えば……なんでしょう?」
「しいて……そうね。やっぱりこの容姿かしら……」
私の言葉に彼はニッコリ微笑んで、さっと横に差し出した腕を下から上に振り上げて地面から一枚の姿見を引っ張り出した。


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