十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

鏡屋 10

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背の高さは私と同じ姿見だけど、そこには私が3人は映るんじゃないかと言うほど横幅がある。
出てきた大きな姿見に向かって彼がもう一度指を鳴らした。
パチーン!
その瞬間、真っ白な風景しか映し出していなかった姿見に3人の私がひしめき合った。
「さて、貴女のご希望にしたがってココに3人の貴女を用意しました……」
鏡の私は皆美しく、ニッコリ微笑んでたたずむ姿はとても私だとは思えない。
唖然としている私の目の前で事はドンドン進んでいく。
彼は大きな姿見の中の向かって左側に居る私にスッと手を差し出し、鏡の中の私は差し出された手に鏡の中から手を出してかさね、彼は鏡の中から私を引き出した。
「……コレは化粧をすると言う事を覚え、顔を整えた貴女」
「化粧を?化粧だけでこんなに?」
「化粧とは……化けて粧う事。文字通り化けたんですよ……正し、彼女は化粧を落とせばそこに居る貴女になる……」
そんなに濃い化粧をしているようには見えない。恐らく、化粧の仕方がうまいだけ。
私はただビックリするしかなかった。
さらに彼はその隣の私に手を差し出し、鏡から引っ張り出す。
「……コレは化粧をし、体型まで変化させた貴女。ただし、現在の時点での貴女のプロポーションに気をつけただけですが」
現在の時点での私。
つまりは、胸が無い細いだけの体と言う事……でも、それでも、ここに居る私よりずっと綺麗でスラッと美しかった。
そして、彼は最後の1人を引き出す。
「……最後のコレは、こうなるはずだった時間軸での貴女。分岐点はかなり遡ります……だから今の貴女では無い貴女になっているでしょう?」
最後の1人。
それは細くスマートなのにもかかわらず、胸もあり、ヒップに肉も付いている。
まるでテレビの中に出てくる人気女優さんのような体型に、薄化粧で微笑み立つその姿は自分であるはずの私でさえボンヤリと見とれてしまうほど。
「さぁ、貴女はどのご自分を選びますか?」
「選ぶ……それって、私が選んだ人になると言う事?」
「えぇ、選んだその人物に……」
「その人物に……」
「ただし、貴女が望んだ容姿だけですが……」
容姿だけ……そういわれて少し私はドキッとした。
他にも望めば私はもしかして……そんな事が頭によぎり、それを見透かしたように彼に言われたからだ。
欲深い自分に溜息をつきながら私はゆっくり3人の私を見る。
化粧をしただけの私から体付が違う私まで。
元々は同じ私のはずなのに顔つきは全然違った。
「……私は」
「はい……どのご自分を選びますか?」
「私は、彼女を……彼女を選ぶわ」
私がスッと指を刺したのは、自信に満ち溢れ、決して俯く事は無いだろう容姿を兼ね備えた3人目の私。
「ほぉ……彼女ですか」
彼はニッコリ微笑んで3人目の私の手を引いて私の目の前に連れてきた。
「本当に宜しいですか?彼女で……」
「えぇ。彼女が良いのよ……」
「では、両手を重ねて瞳を閉じてください」
彼に言われるまま、私は目の前の自分と手を合わせ、瞳を閉じる。
「フフフ、目を覚ました時、貴女は貴女でなくなっているはずですよ……」
全身の毛が逆立つような、風が私の体を吹き抜けていくようなゾワリとした感覚に襲われた私の耳に、彼の声が聞こえた。
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