十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

鏡屋  11

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『ピンポンパンポーン……お呼び出し致します……』
『ね、コレ可愛くない?』
『840円になります……』
ザワザワと私の耳にはいつもの聞きなれた雑音が響いて私は目を開ける。
目の前に見えるのは様々なボールペンが並べられた棚。
「……ココは。いつもの文房具売り場?……」
ぐるりと周りを見渡してみれば、あの不思議な空間と店は全く無く、私はいつも買出しに来るデパートの文房具売り場に立っていた。
「……夢?」
立ったまま眠ったのだろうか?
考えてみれば不思議な事ばかりで、到底それが現実だったとは信じがたい。
(……そうね、そんな都合の良い事が起こる訳が無い。そんな自分に都合の良い事)
フゥと溜息を1つついて私は買出しの品を手に持って、レジへと向かった。
「これ、お願いします……」
少し俯いてレジに品を差し出す。
私は何時だって誰かと対面する時は俯いてしまう。それが癖のようになっていた。
いつもなら無言のままピッピッと言うバーコードを通す音が聞こえてくるのに、今日は中々聞こえてこない。
(あら?誰も居なかったかしら?……確かにレジには男の人が立っていたと思ったけど)
そう思って顔を上げてみれば、そこにはボンヤリと私を見ている男の店員が居た。
(やだ、私、何かおかしいかしら?)
洋服が変なのかと自分の体を見て私はビックリしてしまった。
見下ろせば、いつもなら自分の足が見えるはずの空間に、障害物がある。
(え?!む、胸が……胸があるわ……)
『目を覚ました時、貴女は貴女でなくなっているはずですよ』
そんな店主の言葉が頭によぎり、私はすぐにでも自分を見る必要があるとレジの人に声をかけて素早く会計を済ませ、走ってトイレへと向かった。
すれ違うたび、様々な人が振り返ってまで私を見ている様な気がする。
バタバタと駆け込んだトイレの化粧台の上に手をついて大きな、綺麗に磨かれた鏡を覗き込んだ。
「……嘘……」
鏡の中からは美しい顔が驚きの表情で私を見つめ返している。
そっと、鏡に手を伸ばせば鏡の中の私も鏡に手を伸ばし、2人の手は鏡越しに触れ合った。
「夢じゃ……なかった」
体が自然と小さく揺れ始める。
不思議な出来事に対する怖さから来る震えではないことは分っていた……
私は喜び震えていたのだ。
この美しい、自分自身が手に入れた理想の自分の容姿に、その素晴らしさに打ち震えていたのだった。

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