十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

鏡屋 17

イメージ


「チッ……」
男の舌打ちが聞こえ、私は目を開ける。
「……大丈夫?」
私を覆うように壁に手をついている背の高い男性が私を見下ろして言った。
どこかで聞いた事のある声に頷いた私はゆっくりとその声のしたほうに顔を向ける。
ニッコリ微笑む彼の顔。
確かに見覚えがあるはずなのだが、思い出せない。
(えっと……誰だったかしら?)
私が一生懸命思い出そうとしていると、電車がガタンと揺れて、私はバランスを崩して彼の胸の中に受け止められた。
耳に当たる彼の胸からはドキドキと早い鼓動が聞こえる。
(そりゃそうよね、今の私が突然胸に飛び込めばドキドキもするわ)
彼はそんな事を思っている私にポツリとつぶやく。
「何かあったのかと思って心配したけど……何も無いみたいで良かった」
「え?」
彼の呟きに私が聞き返そうとしたとき、電車のドアが開いて彼は私を駅へと下ろした。
「遅刻しないようにね」
「ちょ、ちょっと!」
電車から降りてくる人の波の中、電車の奥へと消えて行った彼に向かって手を伸ばしたが、降りてくる人に押されて、ホームの中央まで後ずさってしまい、結局、もう一度彼の姿を見る事無く電車の扉は閉められる。
電車から降りた人の波は揃って階段の方へと流れて私は一人、ホームに立ち尽くした。
「誰なの?心配したってどう言う事?……どうして私がこの駅で降りるってわかってたの?」
暫くホームで考え込んでいた私は「あ!」と声を上げる。
(そうか、どこかで聞き覚えがあると思ったけど、昨日の電話だわ……留守電に入っていたあの声。……でも、あの声自体にも聞き覚えがあったのよね。私はどこかであの人に会ってるの??それとも……ストーカー?)
ストーカー……
その答えに私は一瞬身震いした。
私の家や会社を知っているのだとすればその可能性は高いかもしれない。
声だけならまだしも、顔を見ても思い出さないのだから……
(でも、だとしたら、私を助けるかしら?)
結論の出ない思考をグルグル頭にめぐらせていた私は、ホームに入ってくる電車を知らせる音楽にハッとした。
「やだ!遅刻しちゃう!」
慌ててホームの時計を見てそう叫んだ私は、とりあえず、考えるのを止めて、改札へと走って行った。

イメージ上へ
イメージ イメージ イメージ

web拍手 "

応援ヨロシクです♪
inserted by FC2 system