十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

鏡屋 24

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「つまりはそう言う事……」その言葉の意味が私には分らず、鏡屋の視線から顔の向きを変える事無く眼だけをうごかして、視線を反らせる。
「そういう所は変わりませんね……いくら容姿が変わっても」
「そういう所って……」
「相手に強く出られたり、自分の立場が悪くなると、その場所から逃げようとする」
「そんなこと」
視線をそらしたままそういったものの、的確なその鏡屋の言葉に心臓が少し早く鼓動しはじめたのを感じていた。
そんな私の様子を見透かすように鏡屋は語る。
「人の顔色をうかがい、自分の感情だけで相手を見る。そして、勝手に相手の感情を推測、判断し、アナタはその場から逃げるんです」
「に、逃げてなんか……ないわ」
「ふ〜、わかっているのに意地を張る。そこもアナタの変わらないところだ……。何も本当にその場を去ることを逃げるといっているわけではありません。姿形がそこにあろうとも、心が、気持ちが逃げているといっているんです。見ないように、見えないように、視線をそむけ、現状の時間が早く過ぎれば良い……ね、逃げているでしょう?」
返す言葉が見つからなかった。
怒鳴る言葉も、ののしる言葉も……まるで見つからない。
図星をつかれるとはこう言う事なのかと、変な事を思いながら、私の口から出たのは溜息に似た深呼吸。
「私は変わっていない……どんなに容姿が変わっても、やっぱり私は私なのね……」
「自分は外側だけでなく内側も変わった、明るく、美しくそう変わったと思っていたのでしょう?」
「……えぇ、思っていた。思っていたわ……」
鏡屋から視線をそむけたまま下を向き、私はもう観念していた。
私の考えなど鏡屋の前では何もならない。
思考、行動、感情……まるで全てを鏡屋に牛耳られているようなそんな感覚だ。
どんな反論も、どんな態度もその意味を成さない。
「……私がこの体と引き換えになくしたものは……何?」
「もう、気づいているかと思うのですが?」
「本当に貴方ってイジワルなのね。教えてくれないつもりなの……」
「教えないつもりはありませんよ」
俯いている私の頭の中には、勝ち誇ってニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべている鏡屋の顔が思い浮かんでいた。
私が大嫌いな、ずっと私が浴びてきた嘲りの笑い。
チラリと視線を戻しつつ、鏡屋の顔を見てみれば、そこには私の想像した状況は無かった。
鏡屋は私を見下ろし、悲しそうな、見守るようなそんな感情を含んだ視線を私に向けていたのだ。
その瞳に私は思わず、鏡屋につぶやく。
「どうして……」
「アナタ自身がそれを感じ、それを見出すのを待っているに過ぎません」
「私自身で?」
私は眉間に皺をよせ、鏡屋の顔に疑問の視線を向けた。

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