十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

鏡屋 25

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「そんなもの……幾ら考えてもわからないわ……」
「そうでしょうか?姿が変わる前のアナタ、姿が変わってからのアナタ、そこにはアナタが一番大切にしなければならない存在があったはずです。そして、姿が変わって再びこの世界に来たアナタは今、何かを知り、自分には何かが必要であるとそう思いませんか?」
姿が変わる前の私にあって、姿が変わってからの私に無いもの……
更に鏡屋はこの世界に再び訪れた私の事を言った。
この世界に再び現れて、私は容姿が変わってもその中身の本質は変わっていないと言う事を指摘されている。
そう、私自身はどんなに容姿が変わろうと、性格や、言動が変わったと思っていても、その中に眠っている、今まで生きてきて作られた私と言うその中身が変わっていなかった。
そんな変わらない私にとって一番大切な存在……
存在?それは人なの?それとも何か別の物?
考え込んで動かなくなった私に鏡屋は言う。
「いいでしょう、こうしませんか?」
「え?」
「このままココで考え込まれては私も困る。一度、アナタから頂いているその大切なモノをアナタに返しましょう」
「わ、私に返す?」
私は思わず眉間に皺を寄せた。
私に帰すと言う事は私のこの容姿が元に戻ると言う事だと思ったからだ。
しかし、鏡屋はそんな私の気持ちが手に取るようにわかると言ったように、フッと微笑して更に続ける。
「そう嫌そうな顔をしないでください。アナタの思っている通り、勿論容姿は元に戻ります。でもそれは一時的な事、アナタがその存在について思い出し、その存在がどの様なものであるのか気づいたら、再びこの世界に戻ってきてもらいます」
「この、世界に……」
「そう、そして決めていただきます。今のその美しい容姿を手に入れるのか……それとも、アナタにとって大切なその存在をとるのか」
もう一度ココに戻ってきて決める……
私は一瞬迷った。鏡屋のこの提案をそのまま受け入れるのかどうかを。
今まで容姿が変わって、その大切だったかもしれない事は私自身になんの支障も与えていない様な気がしたからだ。
先ほどまでは思い出せず、思い出せないことにイラついていた、知りたいとも思った、でも……
それを態々容姿を戻してまで知る必要があるのだろうか?そんな疑問が頭をもたげる。
そう、私はそれほどまでに、この容姿でいることに満足をしていたのだ。
そんな私の様子を分っているように楽しそうな笑顔を向けて、鏡屋は話しを進める。
「アナタは容姿が変わってから、生活事態の変化も激しい。ですから、容姿をそのまま今の時間軸に戻すわけにも行きません」
「……時間軸に戻せない?」
「つまり、再び訪れてもらったこの鏡の世界に来たときと同じ場所、同じ状態に戻すわけにはいかないと言うことです」
「じゃぁ、私は一体何処に戻されると言うの?」
「一度時間を遡っていただきます。アナタが始めてこの鏡の世界に訪れかえったその時間に……」
私は顔をしかめた。
変わらぬ容姿でまたあの時間を過ごさねばならない。
惨めで、耐え忍ぶだけの世界。
明るさも無ければ楽しさも無く、贅沢も出来ないそんな世界に態々戻らなければならないと言うのだ。
たかが大切なもの1つを思い出すためだけに……
「嫌よ……」
私の口は私の考えよりも早く、結論となるその言葉を吐き出していた。

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