十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

鏡屋 28

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彼女の居なくなった彼女の空間を後にして、自分の店へと帰ってきた鏡屋の手には、装飾は殆ど無いけれど、どの鏡よりも美しくキラキラと輝く、ガラスで作られたように透明に近い鏡が抱えられている。
空間を閉じた鏡屋は大事そうにその鏡を店を入ってすぐ目に付くカウンターに置いた。
「フフフ、思ったとおり、とても綺麗だ……」
そう呟いた鏡屋の店のドア開き鏡屋が振り返れば少し不機嫌な仮面屋がいる。
「……なんだ、仮面屋のジジィか」
「全く、貴方と言う人は……」
「呼び方が気に入らないってんだろ?大丈夫だよ、客に対してはちゃんとした言葉を使ってるさ。気に入らないって言うなら帰ってくれると嬉しいんだけどな〜」
「今更、貴方に言葉使いを言った所でどうしようもないと分っていますし、そんな無駄なことを言ったりはしませんよ」
フーと溜息をついた仮面屋は鏡屋が先ほど置いた、カウンターでキラキラ輝く鏡のそばに行き、自分の顔を鏡に映し込み、鏡越しに鏡屋を見て言った。
「この鏡、また貴方は謀って手に入れたんでしょう?」
「……何の事かわかんねぇな」
「嘘おっしゃい。また人の心の隙間に漬け込んだのでしょう?貴方は目的の物を手に入れる為の手段を選ばなさ過ぎる。我々の真の存在理由をちゃんと理解していますか?」
「理解?しているつもりだよ?手段って?」
「契約をする前に数日間いい思いをさせて、その気分に酔いしれている所で貴方は契約をする」
「……」
「自分の理想とする幸せを手に入れた人間はその判断を素直にできなくなる。幸せが手放されると思えば、すがりたくなる。そうして、何よりも大切なものを貴方に手放してしまうんです……その様な事をして姑息だとは思いませんか?」
「フン、本人がそれで満足してるんだぜ?それに、ちゃんと後からでも契約は成立させているだろう?」
「ふ〜、契約を取れればいいと言うものでは無いんですよ。知りませんよ、この十字街を追われる事になっても」
「……そうなったらそうなった時さ」
「……本当にそう思っているのならそれでいいでしょう。ただ、ココを追われた我々の行く先は1つ。有無も言わさずその場所に流されるんですからね」
「わかってる……」
「我等は既に転生の道を外れてしまっている外道。己の欲望のままの人の世を生き、この場所に落とされ、永遠の時を生きなければならなくなった者。この場を追われれば我等に待っているのはを阿修羅の道。安らぎも楽しみも持たせてはくれない場所しかないのです」
落ち着いた口調で言う仮面屋の言葉に鏡屋はムッと口をすぼませていたが、コクリと素直に頷いた。
「貴方はココにいる連中に比べれば、まだまだ若造だ。忠告を聞くも聞かないも貴方の自由ですが……」
「……分ってるってば。ジジィはしつこいな……」
「我等が成す事、その意味を履き違えてはいけませんよ……イイですね」
「あぁ……」
項垂れて返事をした鏡屋の肩をポンポンと優しく叩いて、仮面屋は鏡屋を後にする。
「……お節介なんだよな。でも……あのジジィは嫌いじゃない」
ドアが閉まって、鏡屋の店前を通っていく仮面屋の背中を見つめながら、鏡屋はポツリと照れた様に呟いた。

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