十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

鏡屋 31

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「ふぅ、折角の綺麗な鏡だったけど、少し欠けちゃった……」
そう、彼女にあの手紙を届けたのはこの俺。
幸いな事に彼は彼女を忘れていなかった。
だから俺は彼に言ったんだ。
『彼女に手紙を届けてあげるよ……きっと彼女もそれを待っている』
ってね。
彼の書いた手紙に彼女の鏡の装飾の一部を粉にしてふりかけ、彼女から貰ったものを少し返した。
「あとはあの人次第……」
今回は特別。ちょっとしたサービス。
全部は返せないけど、今のくたびれた彼女に少しだけなら返してもいいかな……。
綺麗な鏡の飾りを一部欠けさせてしまったけれど、俺だって、この場所を追い出されるのは嫌だからね。
気づいたのなら、もう一度その気持ちを作り上げるのは人間にとってそんなに難しい事じゃない。
誰よりも美しく!
誰よりも一番に!
誰よりも認めて欲しい!
そんな気持ちは誰にでもあるもの……。
でも、誰よりも!と願う気持ちを歪ませて、その気持ちに左右され、それだけを心に持って相対する人を尊敬しなくなればろくなことになりはしない。
必ず自分のした事は自分に返ってくるのだから。
他から盗んだもので、自分の中の本質では無いもので、自分に栄光が訪れようといずれはその仕打ちが返って来る。
それが必然。
ただ、『誰よりも!』その気持ちに流され、その気持ちに支配されている人を他人が責める事はできない。
責める事が出来るのは自分だけ。
人を傷つけ、人を嘲り、人を笑う。
己が凄くて、他人を見下して。
己自身を見つめているようで見つめていない濁りきったその瞳に責めの光を向けるのは自分自身。
まぁね。
大概が行き着くところまで行き着いて気づくものさ。
でも、まだ、自分のしている事に疑問を持つなら、相手の言葉を真摯に受け止める事が出来るなら、救いはあるかもしれないよ。
そして、そんな自分に嫌気がさすうちに一度、自分自身の心の鏡をのぞいてみると良い。
己だけが不幸と思うのは大きな間違いだ。
己の才を自慢し、己の驕りを生むのは小さな間違い。
鏡を覗けばその中の鏡の世界にその時の自分が記憶されている。
無数の自分の残像が存在する部屋は清らかな白色か……くすんだ黒か。
それとも、もっと別の色?
そんな鏡の世界を楽しむ俺は鏡屋。
見たことも無い街並みのキラキラ輝く場所があれば、その扉を開いて見るといい。
笑顔で迎えてあげましょう。
アナタが行き着く先はさてさて、何処でしょうね?
「ようこそ……いらっしゃいませ」
*:.。..。.:*・゚ 鏡屋 Fin

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