雪華〜コイスルヒト〜

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

約束 2

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彼に会えるかもしれない。
その小さな、とても小さく不確かな約束はとても不思議な魔法だった。
不確かなものなのにどうしてこうも心が毎日躍るのか?
まるで10代の恋のように、それを思うだけでドキドキして、一日が輝く。
この前まで、すれ違う人にさえ苛々していたのが嘘のよう。例え肩をぶつけられても、今は笑顔で「すみません」っていえる。
会社に行けば〜
たった1つのミスで部署を変えられ、まるで、女は邪魔だと言わんばかりの会社の男たちの態度に苛立ちを覚えることが少なくなった。
考えてみれば小さな事だったのよね。
部署を変えられようと何をしようとも、その場所で精一杯頑張ればいいんだもの。
会社の方針に逆らう事なんて出来ないんだし、何時までも腹を立てて、今までのことを振り返ってばかりいるのは何だか存している様な気がする。
それまでの頑張りが無駄だった。そんな風に思うなんて馬鹿馬鹿しいわ。
部署が変わったことで私は残業が減った。
大体この時間と約束をしていたけれど、明確に毎日何時何分に会おうと言っていたわけでは無いから、私は会社が終わると急いで約束の場所へ向かって、1時間半その場でジッと彼が通るのを探してる。
指の先が余ってブカブカの彼の皮手袋を目印にするように手につけて、顔は動かさずに瞳だけキョロキョロして。
何だかね、頭を動かしていると、必死で彼を探しているようで。
格好をつけなくってもいいのに〔別に私は探してなんて居ないのよ〕って装ってしまう。
変なところで変なプライドがでちゃうのは私の悪いクセね。
待っている間、私の胸は爆発しそうなほどに膨らんで、息苦しいほど緊張する。
どんな会議だってココまで緊張する事なんて無いのに。
数度呼吸して、必ず何度かに1回は深く息を吸って大きく吐き出す。
白い息が目の前に広がって、その息を見ると何だかフフッと自分で自分に微笑んで、私の頬は緩みっぱなし。
不思議よね。
ずっとサバサバ、ギスギスしていた私は一体何処に行ったのかしら?
この所私はずっとドキドキ、ウルウルしていた。
2週間。
アレから2週間も経ってしまった。
そう、私には【2週間も】と言う言葉になる。
他人からしてみれば【たった2週間】かもしれない期間。
あんなに弾んでいた私の心は深く沈み、溜息が多くでる。
「エンドレスな約束」
そういった彼にはアレから一度も会えなかった。
何時までも続くその約束が果たされるのはいつの事だろう?
あの時は少し楽しく思えたエンドレスという響きも、今では会えいないことのエンドレスになるんじゃないのだろうかと思えてくる。
「会えない」不安に、押しつぶされそうになりながら毎日を過ごした。
たった数度顔を合わせただけの人にどうしてココまで心を乱されなければならないのか?
そんな疑問が何度か沸き起こったが、疑問の答えは出ないまま、心がその疑問を打ち消した。
会いたい……
素直になれず素直と言う言葉すら忘れてしまったんじゃないかと思っていた私は、ただ、そのひとつだけを願っていた。
終業時間が近づくほどに以前の楽しいドキドキが不安のドキドキとなってやってくる。
今日は会えるだろうか……それとも、今日も待ちぼうけ?
あの人は私を忘れてしまったんじゃないか……それとも、アレは幻だったの?
フゥとついた私の溜息はとても重苦しくって、その重苦しさがうつったかのように仕事を終えた私の足取りは少々重たかった。
それでも、習慣となったいつもの場所へと足は向かう。
「……私も馬鹿ね。どうして連絡先を聞かなかったのかしら?」
ここ数日、その考えだけが私の口から飛び出していた。

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