雪華〜コイスルヒト〜

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

私は私? 5

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会社に戻り、残っていた事務の女の子に書類を貰って、早退届を課長に提出する。
「どうしたんだ?」と聞く課長に事情を説明すれば、すんなり課長は首を縦に振った。
「まぁ、コレと言った仕事も無いから早退するのはかまわないが、大丈夫かね?熱が出ているんだろう?」
課長が早退届に印鑑を押しながら少し心配する素振りを見せる。
「えぇ、大丈夫です。送ってくれる方がいますので……」
そういう私の顔には引きつった笑いが浮かんでいた。
あの後、分かったと言う私の言葉を信用せず、彼は私を連れて会社に戻り、そして、今、会社のロビーでちゃんと私が早退してくるのを待っている。
(ふ〜、ちゃんと早退するって言ったのに全然信用無いんだから)
溜息混じりに課長に一礼し、私は荷物をもってエレベーターへ向かった。
下へのボタンを押して、少し待つ。
(まさか、家までついてくるつもりじゃないでしょうね……)
何だかそんな事をおもってあきれているようであって、私の心臓は少しだけドキドキしていた。
なんて現金何だろう……。自分で自分が情けない。
彼を突き放すように、彼から逃げるようにしてあの時帰ってしまったのは私。
ハァと溜息をついてエレベーターに乗り込み、1階のボタンを押して壁に寄りかかる。
……考えてみれば、どうしてあの時、私は帰ってしまったんだろう?
帰った?……違うわね、逃げたんだわ。彼の真っ直ぐな視線と言葉から。
あの時はただムカついただけだと思っていた。
思い出せないことを馬鹿にされたんだと、彼に見下されているんだと思って。
でも違うのかもしれない。
私がイヤだったのは……
ボンヤリと考えていた考えがまとまりそうになった時、ピンポーンと言うチャイムと共にエレベーターのドアが開いた。
音に気をとられたと同時に、私の目に飛び込んできたロビーの、エレベーターに一番近い椅子に腰掛ける彼の背中を見た瞬間私の頭の中は真っ白になる。
椅子に腰掛けている彼の背中は肩の辺りが見えるだけ、服装もコートを着ているから他の人と変わりないのに、私はその肩を見ただけでそれが彼であると見分けてしまっていた。
その事実を改めて自分の中で思ったとき、私はとても不思議な感覚に襲われる。
どうしてだろう、この感じ、この状況をどこかで経験したようなそんな気がした。
少しふらついてエレベーターから出ると、彼が振り返ってこちらにやって来るのが見え、自然と差し出された腕に私は身を預ける。
「もう帰れる?」
「うん、大丈夫……」
「病院に行ったほうがいいと思うけど」
「……そうね、帰りによろうかな。1人で大丈夫だから」
微笑を浮かべていったつもりだったが、彼は首を横に振って「君は嘘つきだから」そういって、私に自分の腰に捕まるように言ってきた。


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