くちづけ

<Sweet Orange Story

  Love 愛しき言霊>

嶺という男 7

イメージ



嶺の開いた扉の向こうには、嶺に抱えられている私の全身がうつっている。
ココがどこなのか、理解した私はキッと嶺に瞳を向けた。
「下ろして」
低い私の声に嶺は首を横に振り、部屋の中に入って私を抱きかかえたままドアの鍵をかける。
壁一面に貼ってあるんじゃないかと言うくらい大きな鏡の下には大理石の洗面台。左側にはもう一枚ドアがあって、恐らくそこには浴槽があるだろう。
「悪いけど、私は客と一緒には湯船には浸からないの……」
そう、私はどんなにお金を積まれても、それだけはしてこなかった。
強引に入ろうとしたヤツも居たけど、そんな事をすれば私に会えなくなるか、殴られるか、大事なものを潰されるかで、今まで何人もの男と夜を過ごしたけれど決して一緒に風呂場に入ったことすらない。
「本当なら唇へのキスも許さないわ。それを許してあげたのよ?大サービスだわ。なのに……」
睨みつけて言う私の視線から瞳をそらす事無く、嶺は微笑んだ。
「誰が背中を流せと言った?」
「……え?」
「ゼロがその気なら入ってやっても構わないが?」
クスクス笑った嶺に私は眉間に皺を寄せる。
分らない。今までのどの男とも違う嶺の行動が私の頭をグチャグチャにしていた。
(鍵まで閉めたのにお風呂には入らないっていうの?じゃぁ、何をするつもり??)
嶺は広い洗面台においてあるホテルの備品を乱暴にどける。
ガチャ!ガチャン!
音を立てて洗面台のくぼみに落ちていく備品に私は一瞬視線を取られたが、嶺はどんな行為をしていても瞳を私に向けたまま。
私を馬鹿にして、生意気だと腹を立てたかと思えば、私に向けられるその瞳の奥には熱いものが感じられる様な気がして、本当に私は嶺と言う人物を量りきれずにいた。
今までこんなことは無く、私は少々焦り始める。
まるで、ゼロという仮面を手に入れた直後の時のように。
平気な顔をして、その心の中ではどうすればいいのだろうと、男の思惑がわからず焦っていたあの頃。
男と言うものを分ったと思っていた……けれど、今私は嶺と言うものを理解できずにいる。
不安……それは私がゼロである仮面を剥がしてしまう。
嶺のペースに巻き込まれてはいけない。頭の中で警告が発せられていた。
そんな私の警告を知ってか知らずか、嶺は備品が無くなって空いたスペースに私を座らせる。
ひんやりとした大理石の冷たさが私の下半身に伝わったが、私はソチラに気を向けることは無く、ジッと嶺の瞳を見つめ返した。
「……まるで、挑むような瞳だが、決意の瞳にも見えるな」
「そう?そんな事無いわよ」
唇からは嘘を、微笑みは仮面。
そう、それこそゼロ。そしてそれがゼロだわ。
「で?こんなところでやろうっていうの?」
「口の悪い女だな」
「イヤなら追い返せばいいわ」
「追い返しか……それは【ゼロ】次第だな」
嶺はそう言うと、シャンプードレッサーになっている洗面台からシャワーのヘッドを引き出してきた。





イメージ上へ
イメージ イメージ イメージ

web拍手 "

ポチッと応援よろしくお願いします♪
inserted by FC2 system