くちづけ

<Sweet Orange Story

  Love 愛しき言霊>

嶺という男 11

イメージ



自分を慰める行為は別に男の特権と言うわけではなく、やり方は違うけれど女だってもちろんそういう行為はする。
実際、私だってそういう事は何度もあって、それは当然の結果と言えば当然の事。
男が私を満足させないから私は自分で自分を満足させるしかなく、幾度と無くその自慰行為は自分の部屋や男のいなくなったホテルの一室で行われた。
でも、それにしたって、今ほど感じることは無い。
少し舌先が胸の先端にふれただけで、指を2本ほど穴に差し込んだだけで、私の体にはしびれる程の快感が走り、ビクビクと体を揺らしていた。
「んンっ…ふぅ!」
こんなに感じるのは久しぶりで、できればもっと感じていたいと思っていたが、時間をかけているわけには行かない。
風呂場の外には嶺がいて、きっと私が出てくるのを待っているはず。
時間がかかれば怪しまれてしまうだろうし、喘ぎ声に聞き耳を立てていないとも限らない。
口を胸でふさいでいると言ってもくぐもった声はどうしても風呂場に響いてしまっているのだから。
グイッとかき混ぜるように挿入した指を激しく動かし、絶え間なく膨れ上がった乳首を責め立てればあっという間に私の体は頂点へと達して、上半身を弓なりに、ビクンと震わせてイク。
ハァハァと肩で息をして引き抜いた指を見てみればネットリとした愛液がお湯から引き出した後でも粘りついていて、どれほど感じていたのかそれを見ても良く分った。
「……我ながら、情けないわね」
自分の体の正直ぶりに自身で情けなさを感じたが、素直にこんなに感じる事の出来る私の体を今まで満足させる男がいなかったことに溜息すら出てくる。
それと同時に、嶺という人物に私は今まで通りゼロと言う女の仮面を被り続けることができるのか不安を覚えた。
「大丈夫、大丈夫よ……ゼロ」
湯から上がり、バスタオルで体を拭きながら湯船の栓を抜いてお湯を流し、私はバスローブを羽織り鏡の前に立つ。
化粧をやり直すつもりで鏡の前にきたけれど、ろくな化粧道具も無い状態でそれも敵わず、仕方が無いと諦め半分で風呂場のドアの鍵を開けて部屋へと戻った。

風呂場を出てすぐの部屋に人の気配は無く、見渡してみても嶺の姿はない。
首をかしげながら隣の部屋を覗きに行くがそれでも誰も居らず、スイートルームに設けられた大き目の二つの部屋、トイレ、小さな給湯室のような場所にBarカウンターにも誰もいない。
最後に小さな書斎のような部屋を見つけて覗いてみれば、大きく社長が座るようなフワフワとした椅子の前にあるパソコンの画面が光っていて、そこには何か文章がつづられていた。
「ゼロへ」そんなまるで友達に書く手紙のように始まるメモ帳には、ツラツラと自分勝手な文章が続けられている。

――ゼロへ
コレを見つけた君はかなりの寂しがり屋だと思うけどどうだい?
少々部屋を出る。君は好きにしたら良いが、まだ君に俺は本名を聞いていないし、再び君を指名しても君は俺だと分ればこないだろう?だから人質というわけじゃないが、君の荷物を預かる。
君の意地を尊重して、荷物の中身はみないでやってやる。荷物を返して欲しかったら俺の指名を断らない事だ。

「……最低ね」
ハァと溜息混じりに椅子に腰掛け、パソコンの画面をにらみつける私は少しだけ嶺がいない事にほっとしていた。


イメージ上へ
イメージ イメージ イメージ

web拍手 "

ポチッと応援よろしくお願いします♪
inserted by FC2 system